研究概要 |
水産養殖上極めて重要な魚種であるウナギは、これまで外因性ホルモンを投与しないかぎり飼育下では成熟しないとされてきた。しかし、本年度、水温未調整の海水(10.3-27.5℃)で約2.5年飼育したウナギ7尾の内、1尾が偶然にも自然に成熟し、生殖腺から大量の精子を得ることができた。そこで本年度は、このウナギについて詳細に調べた。 成熟個体の生殖腺体指数は18.4%であり、その生殖腺は1対の精巣片とその間に7つの生殖腺塊を有しており、全ての部位で精子が充満していた。一方、他の6尾は生殖腺体指数0.19%以下の未熟雄個体であった。血中ステロイド(11-KT及びDHP)量を測定した結果、血中11-KT及びDHP量は、成熟個体では10.8及び7.41ng/ml、未熟雄個体では平均0.45及び0.1ng/mlであった。組織学的観察の結果、成熟した個体の精巣片および生殖腺塊では全ての成熟段階の雄性生殖細胞が認められた。また、生殖腺塊には第一次卵黄球期の卵母細胞も観察された。加えて、この個体の生殖腺内精液はpH8.1、82.4%のスパマトクリット値、87.1%の運動率を示した。併せて、精子の核DNA量は単相であり、正常な減数分裂が行われたと推察された。さらに、ホルモン投与により成熟させた雌から得た卵との人工授精により艀化した仔魚は正常に発生し、シラスウナギまで変態する個体が確認された。以上の結果から,飼育下でホルモンを投与せずに受精能を有する生殖腺内精子を産出したウナギを世界で初めて確認した。今回及び今後の解析結果は、雄ウナギだけでなく、課題である雌ウナギの成熟誘起技術の開発に貢献できるものと予想される。
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