研究概要 |
歪みシリコンウェハはSi層の歪みによりキャリア移動度が向上するため,次世代のULSI材料として注目されている.このSi層の歪みはSiGe層上にSiをエピタキシャル成長させることにより生じるが,電気的特性だけではなく,デバイス作製時に重要となるウェハ表面の化学的特性も変化させることが予想される.研究代表者が行った量子化学計算による過去の解析の結果,歪み状態により表面反応性が変化することが示唆されている.このような背景の下,本研究では最表層の歪み状態を原子レベルで知見を得,化学反応性に与える影響を定量的に解析することを目的に研究を進めた.本年度の研究では,量子化学計算により原子レベルでの積層厚に対するひずみ状態の変化を解析した.また表面反応性を電気化学的なパラメータで表すためにSiの標準電極電位の算出を試み,さらに歪みが電位に与える影響を解析した. 構造解析では,ガウス関数を用いた周期境界条件計算を行った.ひずみを想定して格子定数を約3%伸張させた固定層部分にSiを積層させ,二次元の周期境界条件下で構造最適化を行った結果,層ごとに徐々にひずみが緩和したが,5層では歪みは完全には緩和しなかった.これらの結果により,量子化学計算により,実験的手法では困難な原子レベルでの歪みの解析が可能であることが示唆された.現在,更にSi層数を増やし,構造最適化を試みている. また,標準電極電位はクラスターモデルを用いたエネルギー計算より概算した化学ポテンシャルをNernstの式に代入することで算出した.この計算により求めたSiの標準電極電位の値は,-0.58 V vs.NHEとなり,Siの歪みが増大するにつれて電位が卑にシフトすることが示された.この電位のシフトはSiのHOMOのエネルギーの増加と関連している可能性が考えられる.
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