研究概要 |
近年,歪みシリコン基板はSi層の歪みによりキャリア移動度が向上するため,次世代のULSI材料として注目されている。このSi層の歪みはSiGe層上にSiをエピタキシャル成長させることにより生じるが,電気的特性だけではなく,デバイス作製時に重要となる基板表面の化学的特性も変化させることが予想される.このような背景の下,申請者は最表層の歪み状態を原子レベルで知見を得,化学反応性に与える影響を定量的に解析することを目的に研究を進めている.本年度は以下の2つの切り口からの解析を行った. ・歪みシリコンの構造および湿式処理工程における表面反応性に関する解析 歪みシリコン基板は,Si層の歪みは層厚が増すと緩和するが,どの程度の膜厚で緩和するかは知られていない.また,歪みが存在することで表面反応性に影響を与える可能性がある.より効率よくデバイスを作製し高性能化を図るため,本検討ではこれらに関しての定量的な知見を得るための解析を理論計算により行っている. 本年度は昨年度より引き続き,Gauss型基底関数周期境界計算を行い,歪みSi層の層ごとの構造について解析を進めた.その結果,下地層の歪みによりその上に積層されたSiの層間隔や結合長が層ごとに変化し,歪み層の構造に影響を与えることが示唆された.また,標準電極電位に関する検討では,文献値のエンタルピーを利用することで温度の項を盛り込み,文献値に近い値を得ることができた. ・シリコン表面インデンテーション痕の有限要素法による解析 Si基板における圧痕部位は,他の部分に比べて化学的活性が高いことが確認されている,圧痕部位を共焦点ラマン散乱分光で解析した結果,中心部分は圧縮歪み,周囲のパイルアップ部位では引っ張り歪みのモードが観測された.そこで,得られた結果の裏づけを行うために,圧痕の有限要素法による構造解析を行ったところ,圧子直下では圧縮歪が作用し,周辺の盛り上り部では引張歪が作用していることが確認された.
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