真社会性昆虫であるアリ類では、働きアリが精子を保存する器官である受精嚢を保持しないために二倍体であるメス卵を生産できない働きアリの完全処女化が多くの種でみられる。本研究では、働きアリの受精嚢の発達程度が種により段階的であるハリアリ亜科の様々な種を用いて、働きアリの受精嚢の発生制御過程を調べることで、非繁殖カストの完全処女化メカニズムを明らかにした。 本年度の研究では、2種の女王の受精嚢の形態形成を組織切片を作成することで一般的な形態形成過程を明らかにした後、以下の種の働きアリの受精嚢の発生・退縮過程を追跡した。1)働きアリが成虫期に女王と同様の機能的な受精嚢を保持する種、2)働きアリが成虫期に痕跡的な受精嚢を保持する種、3)働きアリが成虫期に受精嚢を保持しないが卵巣は保持する種、4)働きアリが成虫期に受精嚢も卵巣も保持しない種。主な結果は以下の通りである。 女王では、前蛹期に卵管が陥入した後、蛹期初期に卵管から受精嚢が分化して、中期に受精嚢壁の細胞層の厚さに不均一化が生じ、後期に肥大化した。終期に門部付近の細胞層が厚くなり、成虫の受精嚢が形成された。1)では女王と同様の発生過程を示した。2)では、途中まで1)のような発生過程を示したものの、後に退縮がみられ、痕跡的な受精嚢を形成した。3)では、成虫期に受精嚢がないにもかかわらず、その原基は存在していたが、発達することなく退縮、消失した。2)と3)では、退縮・消失するタイミングが種により異なっていた。4)では最初から卵管が存在せず、形態形成をしなかった。 これらの研究から、機能的な受精嚢は全て同様の過程で形成されること、成虫期に受精嚢を保持しないが卵巣を保持する働きアリは受精嚢原基を保持しているが退縮すること、種により受精嚢の退縮・消失時期が異なり、その時期が早いほど女王との形態差が大きい傾向がみられたことが明らかとなった。
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