本研究では、ハリアリ亜科の多様な種を用いて、女王の受精嚢の形態形成過程と以下のタイプの働きアリの受精嚢の発生・退縮過程を比較した。1)働きアリが成虫期に女王と同様の機能的な受精嚢を保持する種、2)働きアリが成虫期に痕跡的な受精嚢を保持する種、3)働きアリが成虫期に受精嚢を保持しないが卵巣は保持する種、4)働きアリが成虫期に受精嚢も卵巣も保持しない種。本年度の研究では、昨年度に実験をおこなった13種に加え、新たに採集をした8種について調査した。主な結果は以下の通りである。 2)と3)では、すべての種において受精嚢原基がみられたが、退縮・消失するタイミングが種により異なっていた。4)では実験に用いた3種のうち2種で最初から卵管が存在せず、形態形成をしなかったが、残りの1種で受精嚢原基の存在が確認された。これらの研究から、成虫期に受精嚢を保持しないが卵巣を保持する働きアリは受精嚢原基を保持しているが退縮すること、種により受精嚢の退縮・消失時期が異なり、その時期が早いほど女王との形態差が大きい傾向がみられたことが明らかとなった。これらの結果を第15回国際社会性昆虫学会にてポスター発表した。 また、女王アリの長期間の精子保存能力を調べるために、実験室で5年以上生存することが観察されているキイロシリアゲアリを材料に、精子生存率とアリ類の受精嚢を特徴づける門部上皮細胞層の厚さの経時変化を調べた。その結果、交尾2年後の精子生存率は86%であり、交尾直後の精子生存率(75-95%)と差がみられなかったことから、高い精子生存率を維持する能力があると考えられる。また、上皮細胞層の厚さは交尾直後から1日経過すると約2倍になり、1年経過しても同様の厚さを維持していた。しかし、これらの結果は実験個体数が少なかったため、今後のさらなる実験が必要であろう。
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