本研究の目的は、活版印刷術に先立つ大量言説普及装置であった托鉢修道会の説教の諸側面を研究することだが、特に具体的には以下の2つの側面を探求することをあげていた。ひとつは、托鉢修道会の説教の「心的暦」(mental calendar)の問題であり、第二の側面は、説教者は、聴衆がどのように説教を理解(情報処理)することを期待していたかを明らかにすることである。本年は多くの時間を前者に費やした。 今年度公刊された論文は一点である。「心的暦」が説教執筆者に及ぼした規範的な影響についての論文を執筆する過程で、その前段階として、説教者の心理に関する考察を行ったものである。さらに、2006年7月ハンガリー・ブダペストにおける国際中世説教学会を行い、参加者から高い評価を得た。 また、中世後期において最もよく普及していた範例説教集のいくつかを選び、その一部分のみを並行的に用いる「横断的アプローチ」を用いることによって、特定の日曜日の説教で扱われる特定のトピックについて、どのような言説が教会から中世後期の社会に対して浸透させられていたのかを考察する作業を行い、この作業は継続中である。
|