研究課題
体外培養胚は体内発生胚と比較して発生能が低く、その原因の一つとして高い酸化ストレスの負荷が示唆される。そこで、本年度はナノテクノロジーを応用したマイクロチップ内での効率的なブタ胚体外生産技術開発のモデル実験として、通常(マクロ)の体外培養下において高抗酸化環境が胚の体外発生能に及ぼす効果を明らかにするために、まずグルタチオン(GSH)およびチオレドキシンを添加した培地でブタ体外生産胚を培養し、胚の発生能および胚中GSH量を検証した。卵子の回収、成熟培養および体外受精はKikuchi et al.(2002)に従った(受精日=D0)。受精後、GSH(0.05〜5μM)およびチオレドキシン(0.1〜2mg/ml)を添加した培地中でD6まで胚を培養し、胚盤胞までの発生率および胚盤胞中細胞数を計測した。また、4細胞期胚(D2)および胚盤胞(D6)の胚1個あたりのGSH量を比較した。その結果、胚盤胞までの発生率は、GSH0.5μMあるいは1μM添加区、およびチオレドキシン1mg/ml添加区において、無添加区と比較して有意(P<0.05)に高く、胚盤胞中細胞数もGSH1μM添加区において有意(P<0.01)に増加した。胚中GSH量は、GSH1μM添加区で培養期間を通して無添加区よりも有意(P<0.05)に高く、チオレドキシン1mg/ml添加区においても4細胞期で無添加区よりも有意(P<0.01)に高かった。以上の結果より、GSHおよびチオレドキシンを培地に添加することで、ブタ胚への酸化ストレスが軽減され高率での胚盤胞の作出が可能であることが示された。酸化ストレスは胚の割球にアポトーシスを誘発することが知られている。そこで、前述のGSH/TRX添加培地を用いて、ブタ胚盤胞におけるアポトーシス誘発動態を検証した。定法に従い卵子成熟培養および体外受精を行い、受精後、GSH(0.5および1μM)あるいはTRX(1mg/ml)添加培地中で6日間胚を培養した後、Propidium Iodideで核を染色して胚盤胞中の細胞数を測定した。またTUNEL法によりアポトーシス細胞を検出し、総細胞に占めるアポトーシス細胞の割合を算出した。その結果、胚盤胞までの発生率は、GSHおよびTRX添加区において、無添加区と比較して有意に高かった。アポトーシス細胞数は、各区間で有意差は検出されなかったが、胚盤胞中細胞数はGSHおよびTRX添加区において有意に増加し、総細胞数に占めるアポトーシス細胞の割合も両添加区において有意に低下した。以上より、GSHあるいはTRXを培地に添加することで、ブタ胚のアポトーシス細胞の割合が低下し、高品質の胚盤胞の作出が可能となることが示された。
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