研究概要 |
体外培養胚は体内発生胚と比較して発生能が低く、その原因の一つとして高い酸化ストレスの負荷が示唆される。本年度は、ナノテクノロジーを応用したマイクロチップ内での効率的なブタ胚体外生産技術開発のモデル実験として、高抗酸化環境が胚の体外発生能に及ぼす効果を明らかにした。まず、グルタチオン(GSH)およびチオレドキシンを添加した培地でブタ体外生産胚を培養し、胚の発生能および胚中GSH量を検証した。その結果,両抗酸化物質の添加により胚細胞質中のH_2O_2濃度の有意な低下および胚盤胞発生率の有意な向上を確認した。さらに,胚を構成する細胞のアポトーシス死が抑制され,胚盤胞を構成する細胞数の有意な上昇が認められた。この結果から,高い還元状態での胚培養により,高効率かつ高品質のブタ胚の生産が可能であることが示された(Molecular Reproduction and Development,2006;73:998-1007)。また、卵丘細胞卵子複合体(COC)は、ゴナドトロピン(GTH)刺激を受けることで2nd messengerであるCAMPが上昇し、分化・成熟が誘導される。さらに、COCの主要な物質輸送チャンネルであるGap junctional communication (GJC)の消長にもGTHの関与が報告されている。そこで、cAMP分解酵素であるphosphodiesterase(PDE)の抑制が成熟培養時のブタCOCに及ぼす影響について解析した。FSHまたはPDE阻害剤(IBMX)を添加した10%ウシ胎仔血清を含むM199中でCOCを20時間培養し、培養期間のCOCにおけるGJC、cAMP度およびLH受容体発現を検証した。その結果、FSH区のCOCにおけるGJCは培養に伴い速やかに低下したが、IBMX区ではFSH区および対照区と比較してGJCの低下は緩やかであり、その差は両区に対して有意だった。また、FSH、IBMX区共に無添加区と比較してCOC中のcAMP度は有意に増加し、その上昇はFSH区においてより顕著であった。さらに、FSH、IBMX両区において、無添加区と比較してLH受容体発現が有意に増加した。以上より、ブタCOCのPDEを抑制することで成熟培養中のGJCが持続し、さらにFSHによる刺激無しにLH受容体発現が誘導されることが明らかになった(Biology of Reproductionに投稿、現在査読中)。
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