本研究は、ポスト狩猟採集民社会が形成される過程に注目し、そのなかでサンの文化の独自性がいかに保たれているのかを検討するものである。長年、狩猟採集生活を持続させてきたサン社会は、近年、主流社会への統合をはかる再定住政策によって、その生活の基盤を失いつつある。一方で再定住地には、それまで各地に散在していた小規模な集団が結集し、かつてない大規模なサンのコミュニティが誕生している。本研究ではこの点に注目し、再定住によってはじめて可能となったサンの政治、経済、文化活動について検討し、再定住地におけるサンの文化や社会的秩序の再編の過程を検討することを目的としている。 この目的のもと、本年度はまず5月に「南部アフリカ狩猟採集民サンの再定住にともなう社会関係の再編」(日本アフリカ学会)を発表し、これまでの研究成果を整理した。これをうけて8月から11月までは現地調査を実施した。ボツワナ共和国の再定住地において、住民間の社会関係に注目して、土地利用あり方や政治的代表者の選出過程などを調査した。また大学やNGOのスタッフと再定住地における開発プロジェクトに関して議論した。さらに南東部アフリカにおいて再定住政策が住民に与える影響についての広域調査を実施するとともに、文献資料を収集した。1月には、調査成果をまとめて「開発政策と先住民運動のはざまで」(国立民族学博物館共同研究会)として発表し、近年高まりつつある先住民運動のもと、再定住地の政治的代表者の選出に際しても「先住性」や「系譜」が重要な意味を持ち始めていることを指摘した。また2月には京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科のメンバーとともにワークショップ"「土地」から展望する南部アフリカ"を企画し、再定住地における混住状態のなかで出身域や出自ごとの帰属意識がうまれ、それが土地利用にも反映されていることを発表した。これらの成果については現在論文を執筆中である。
|