近代日本の「国家神道」期における神道家の内実を闡明し、さらに昭和ナショナリズムの諸相のなかで、これまで等閑視されてきた感のある神道家の思想と行動を明らかにするために、当該期に活動した神道人の一人である葦津耕次郎に焦点を当てて、宗教的人間としての彼の神道信仰に基づいて形成される国体観、天皇観、議会政治観、外交観などを明らかにすることを目的とした研究を遂行した。 如上の目的を達成するために、今年度は、国立国会図書館、国立公文書館、学習院大学図書館などにおいて葦津耕次郎や日本近代における神社界の動向に関する未見資料の調査と蒐集を行った。さらに葦津耕次郎の近親者への聞取り調査も実施し、文献資料・聞き取り結果を整理・分析した。 その成果として公表した研究論文が、「明治期の葦津耕次郎」(『神道史研究』53巻2号)と「葦津耕次郎の政治観」(『明治聖徳記念学会紀要』復刊42号)である。 「明治期の葦津耕次郎」では、葦津耕次郎が宗教的人間(神道者)になってゆく背景とその状況を筥崎八幡への信仰をキーワードとして分析し、主として日露戦争後までの葦津の思想形成を扱った。これによって、後の葦津の種々の活動の源泉が、葦津家の祖先(大神家)の幕末期における活動と「回心」を経て獲得した神道信仰、とりわけ筥崎八幡への信仰にあることが明らかとなった。また、「葦津耕次郎の政治観」では、国立国会図書館、国立公文書館などでの文献調査で得られた資料によって、その神道信仰から導かれる国体観に基いた祭政一致をキーワードとする独自の昭和維新論へとつながる議会政治、政党、外交、軍事に関する、大正デモクラシー期から昭和戦前期にかけての葦津の考えを明らかにすることができた。
|