研究概要 |
これまで、哺乳類に特有の着床前発生を制御する遺伝子についてはあまり分かっていなかった。私は、これらの過程を制御する可能性のあるものとして、MAPキナーゼシグナル経路に着目した。MAPキナーゼカスケードは様々な細胞機能において重要な役割を担っていることが知られており、ERK経路、JNK経路、p38経路が含まれる。以前からMAPキナーゼファミリーが初期発生で重要な働きをしていることが明らかにされていたので、着床前発生においても機能することが期待された。本研究で、JNK経路とp38 MAPキナーゼ経路をそれぞれに特異的なインヒビターを用いて阻害したところ、胚盤胞期の割腔形成に異常がみられた。これはERK経路の阻害では見られない現象であった。さらに、抗リン酸化抗体を用いて、JNKとp38がマウスの着床前発生の期間(4細胞期〜胚盤胞期)、活性化していることも明らかにした。以上の結果はJNKとp38がマウスの着床前発生に関与することを強く示唆するものであった。次に私は、転写阻害剤(アクチノマイシンD)によって遺伝子発現がコンパクションと胚盤胞形成に必要であることを確認し、マイクロアレイを行った。JNK経路とp38経路の阻害に感受性であるが、ERK経路の阻害には非感受性であるものは、39,000転写産物のうちたった156個であった。さらに、156遺伝子のうち10遺伝子の発現は、JNK経路の阻害、p38経路の阻害、両方に感受性であった。この10遺伝子には軸形成やパターン形成に機能が知られているものが含まれていた。この10遺伝子のうちのいくつかをsiRNAを用いて抑制し、その効果をみたところ、割腔形成に異常がみられた。よって、本研究により、マウス着床前発生でMAPキナーゼ経路が機能し、胚盤胞形成に関与する可能性がある候補遺伝子を絞ることに成功したと考えられる。
|