研究概要 |
本年度は、(1)ヒト大脳低次視覚野が形態情報の処理、特に遮蔽された表面の補完(アモーダル補完)に果たす役割をfMRIを用いて詳細に検討した。また、(2)心理・脳イメージング実験の精度を向上させるためのシステムの開発を行った。 (1)従来、遮蔽された物体の補完(アモーダル補完)には、T-junction(物体同士の重なった部位にできる文節)同士の関係性が重要であるとされてきた。本研究では、このアモーダル補完に時間的な視覚文脈を与えることで、「T-junctionは存在するが、遮蔽される以前に見ていた物体の全体像の知覚によって、遮蔽物の下で物体が連続していないことを観察者が知っている」状態を作り出し、そのような視物体を観察している際の脳活動を解析した。結果、アモーダル補完には、T-junctionからボトムアップ的な物体補完(V1からのフィードフォワードな処理経路によって成立)に加え、IPS、MT、LOなどの高次視覚野からV1へのフィードバック信号による制御も重要な役割を果たしていることが示唆された。現在、これらの成果を2本の英語論文にまとめている最中であり、来年度初旬に投稿する予定である。 (2)心理実験においてディスプレイ装置の輝度・色較正は必須であり、視覚刺激を呈示する際に従来から一般的に用いられてきたCRT(Cathode Ray Tube,陰極管)についてはその較正方法が確立されている。しかし、その手法はCRTの内部特性に基づいて提案されたものであるため、最近の脳イメージング実験で盛んに用いられるようになってきたLCD(Liquid Crystal Display)やDLP(Digital Light Processing)などの新方式のディスプレイ装置に対しては適切な較正が行えないと考えられる。そこで本研究では、この問題を克服するために新たなディスプレイ較正手法を開発した。提案する自動較正手続きは、区分線形的手法を応用し、希望の色近傍での最小2乗推定の繰返し演算によって較正を行うものであり、システム全体の線形性や一定のディスプレイ・ガンマを仮定しないため、非常に応用範囲の広い手法である。この成果は、日本基礎心理学会刊行の「基礎心理学研究」への掲載が決定した。
|