本研究では現代インドにおいて広汎に流通している印刷物の宗教画をポスター宗教画と称している。これまでポスター宗教画は、「ヒンドゥー教においてはあらゆるモノに神が顕現できる」という前提のもとに、その神性が所与のものとみなされ、神性化の過程は等閑視されてきた。しかし寺院やバラモン司祭の家庭の神像においては緻密な儀礼を経て神が招来されるのに対して、ポスター宗教画にはそのような体系だった儀礼は整備されていない。本年度は昨年に引き続いてフィールド調査を行い、ボスター宗教画をめぐる、製作者、流通者、販売者、購買者、礼拝者、メディア、神格などの多元的エージェント間の複合的相互交渉に注目し、一つの「商品」であったポスター宗教画がどのように人々にとって固有の意味や重要性を持つようになっていくのか、その過程を調査した。この研究成果は叢書『フェティシズム-人とモノの関係を探求する』(2008年出版予定)に掲載予定である。 また、ポスター宗教画が全インドに広まったとされる19世紀末から現代までの図像の変遷に関しても引き続き調査分析を行った。この際、蒐集したポスター宗教画の図像や製作現場での調査をもとに、近年登場した新しい図像と現代インドの社会変容との関連について考察している。これらの研究内容は日本南アジア学会において発表を行うと共に、論文にして投稿した(京都大学人文科学研究所発行「人文学報第95号」に採録決定)。また奈良大学におけるポスター宗教画をめぐる展示会において、資料に特別寄稿を寄せる等、これまでの研究内容を積極的に報告することに努めた。
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