昨年度までの調査では、主に現代インドで広汎に流通する印刷物宗教画(以下ポスター宗教画)の大量生産物というモノとしての性質や、近年新たに製作されるようになった図像が現代インドの社会変容といかに関わっているかを論じてきた。 本年度は諸個人の宗教実践に関して引き続きデリーにてフィールドワークを行っている。その際、これまで調査の主対象であったポスター宗教画等を介してなされるヒンドゥー教徒の家庭内のプージャー(礼拝供養)のみならず、寺院参拝や巡礼を含む人々の宗教実践の全般に関しても調査を行ってきた。そのなかで特に、寺院参拝は盛んであってもポスター宗教画に描かれない神、家庭内では祀られない神を取り上げ検証している。ポスター宗教画では寺院で祀られている全ての神が図像として描かれ流通しているわけではない。なかには図像を製作することや、家庭で祀ることをよしとしない神々がある。それらは厳格な荒ぶる神であったり、非常にローカルな村落神であったりする。それら大量生産物となることを拒む神々の性質と、人々の家庭と寺院におけるプージャーに対する認識・実践の差異を検討することにより、神格と土地(トポス)との関わりや、礼拝対象物の性質、そして現代インドにおける家庭内儀礼の位置づけを再考した。それにより、大量生産物であるポスター宗教画が宗教実践に与えた影響をより包括的に明らかにすることに努めた。これらの研究成果の一部は叢書「フェティシズム研究」第2巻「越境するモノー呪物・商品・蒐集品」(京都大学学術出版会)において出版予定である。
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