(1)波動周期境界値問題における高速多重極境界要素法の開発 3次元Maxwell方程式における周期境界値問題における高速多重極法(periodic FMM)を開発した。高速多重極アルゴリズムでは、空間を「セル」によって区分し、遠方の要素同士の相互作用は、セル同士の相互作用によって近似することによって、計算の高速化を実現する。本研究で開発した周期境界値問題版の高速多重極アルゴリズムの場合、単位構造が無限に繰り返し配置されていると解釈してアルゴリズムを構成する。ただし、無限個のセル同士の相互作用を計算する部分において、収束が大変遅い無限格子和が現れるため、その評価には工夫を要する。そこで、格子和を指数的に減衰するFourier積分の形で表現し、数値積分によって評価する新しい定式化を提案した。数値実験によって、当該手法の妥当性、有効性を検証した。 (2)時間域弾性波動問題における高速多重極境界要素法の開発と、亀裂検出逆問題への適用 高速多重極法を、アルミ供試体の亀裂検出逆問題に応用した。亀裂検出実験では、まず亀裂の入ったアルミ供試体の表面のある一部分に超音波振動を与え、別の部分において表面振動を測定する。次に、表面振動の観測値から逆解析を行い、亀裂の角度、深さ等を決定する。逆解析では大規模時間域弾性波動問題を何度も解く必要が生じるため、従来は大変な計算コストがかかっていた。そこで、高速多重極法を適用することによって、欠陥決定に要する計算資源を減らすことを試みた。数値実験の結果、従来の算法のおよそ10分の1の所要メモリで同等の結果が得られることが確認できた。
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