プロスタグランジン(PG)E2は視床下部・視索前野のEP3受容体に作用して発熱を引き起こすと考えられているが、その作用機序についてはほとんど不明である。研究代表者は、EP3シグナルの下流で引き起こされる分子機構を明らかにするために、視索前野のEP3発現ニューロンのみを単離して、PGE2投与による発現プロファイルの変動を調べた。 1 間脳視床下部・視索前野におけるEP3受容体とGABA-A受容体の発現 視索前野のEP3発現ニューロンにおいて、PGE2で発現低下を示した遺伝子の中から、GABA-A受容体サブユニットに注目した。まず視索前野でEP3受容体と発現部位が一致するかどうかを、連続切片を用いたin situ hybridizationを用いて調べたところgamma1、gamma2およびalpha2で発現部位が重なることがわかった。次に免疫二重染色により調べたところ、EP3発現細胞の約8割以上がgamma2およびalpha2サブユニットを共発現することを見出した。従って、視索前野のEP3発現ニューロンは、GABAによる支配を受けることが明らかとなった。 2 GABA-A作動薬の体温に対する影響 GABA-A作動薬を野生型マウスの脳室内投与したところ、体温を低下させ、PGE2による体温上昇を抑制した。一方、PGE2による体温上昇を示さないEP3欠損マウスに対しても、GABA-A作動薬は体温を低下させた。従って、GABA-A受容体の賦活化は、普遍的な体温低下機構として存在し、EP3シグナルはこのGABA-Aシグナルを抑制することで体温上昇を引き起こす可能性が考えられた。
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