これまでの研究からGM1は脂質ラフト様膜中でコレステロール依存的にクラスターを形成し、アミロイドβ蛋白質(Aβ)との結合能を獲得することが明らかになっている。今回特別研究員は、アルツハイマー病(AD)発症に関わる毒性型AβがこのGM1クラスターを介して形成されるのではないかと考え、その単離・同定について検討を行った。単量体・ランダム構造で自己凝集の起こらない濃度のAβ-(1-40)を、脂質ラフト様膜(GM1/コレステロール/スフィンゴミエリン=1:2:2(モル比)で構成)と混合しインキュベートした。チオフラビンT蛍光実験、円二色性スペクトルおよび神経分化PC12細胞を用いた細胞毒性試験の結果、Aβ-(1-40)はラグタイムの後、βシート構造に富んだ毒性型凝集体を形成した。遠心分離により毒性型Aβ-(1-40)の単離を行い、透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果、毒性の本体は不溶性のアミロイド線維であった。毒性型線維形成後も二次構造変化・線維間での側方凝集が観察されたが毒性は保持された。この結果から、AβがGM1クラスターを含有する膜と結合すると、これが凝集核となって、毒性型線維の形成が起こることが明らかになった。一方、GM1非存在下水中で形成されたAβ-(1-40)アミロイド線維は、遥かに弱い毒性しか示さず、細い線維で構成されているという形態的な相違が観察された。ANS蛍光実験、細胞結合性の検討により、水中で形成されたAβ-(1-40)線維は、表面疎水性が低く、細胞への結合性が低いため、毒性が弱いと考えられた。以上より、脂質ラフト様膜を介して形成されたAβ-(1-40)線維が毒性を示し、ADの進行に重要な役割を果たす可能性が示唆された。また、Aβ-(1-40)におけるpolymorphismの存在がADの進行とAβ蓄積量との相関が弱いことの原因のひとつである可能性が示された。
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