逆遺伝学的解析法であるRNA干渉(RNA interference)法を用いて、日本を含む東アジアおよびヨーロッパにおいてマツに甚大な被害を与えているマツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus:以下、ザイセンチュウ)を植物寄生性線虫のモデルとし、標的を狙い定めたきわめて特異性の高い殺線虫法の開発に向けた基礎研究をおこなった。まずはモデル生物であり同じ線虫類のCaenorhabditis elegans(以下、エレガンス)と比較しながら、初期胚発生様式の観察をおこなった。ザイセンチュウの生殖細胞の減数分裂、および受精から2細胞期までの胚の体細胞分裂における染色体構造と行動を、DAPI染色と共焦点レーザースキャン顕微鏡によって得られた画像の3次元化によって解析した。受精後、雄性および雌性前核がそれぞれゲノム1組をもって出現し、対合・融合がおこなわれたのちに胚発生が始まる。卵母細胞のほうが精子よりも細胞質のうえでは圧倒的に大きいが、雄性前核のほうが雌性前核よりも大きかった。雄および雌の生殖細胞における減数分裂第一分裂時、受精後の前核融合時、初期胚割球の分裂中期に、染色体の数と形がはっきり確認できた。染色体の数は雌雄ともにN=6(2N=12)であった;大きさおよび形が全てほぼ同じであるため、互いの区別ができなかった。したがって、性決定様式はエレガンスのXO/XXではないと考えられる。FISH法により、rRNA領域は染色体2本(1対)の末端に位置していることがわかった。
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