本年度、私はまずチャルメルソウ類において種の識別に有用であることが確認されている核リボゾーム遺伝子のETS及びITS領域を用いて、日本産チャルメルソウ類の種の多様性の再評価を行った。その結果、従来オオチャルメルソウ、トサチャルメルソウとして認識されていた種のなかにそれぞれ塩基配列において2.1-2.6%の明確な違いがある2つの遺伝的なまとまりを見出した。これらには外部形態(花の形態・集の大きさ)からも遺伝的な違いに対応するはっきりとした識別点が見つかった。さらにそれぞれの2集団の間で人工交配実験を行い、F1雑種の花粉稔性を測定したところ両親種と比べ50%以上の稔性低下が見られた。ゆえにそれぞれの従来種の中に見出されたこれら2集団はいずれも生物学的に別種と考えられた。 次にチャルメルソウ節は他の多くの姉妹種の倍の染色体数である2n=28の核型を持つことが知られているが、この倍数性の起源を明らかにするため、核4遺伝子座をチャルメルソウ類の様々な種から単離し、分子系統解析を行った。その結果、倍数体のチャルメルソウ節はこれら2倍体でシングルコピーの遺伝子座を2セットずつ持ち、それぞれの単系統性が強く支持された。またこれら2つのコピーはお互いに姉妹関係に無く、むしろそれぞれが他の2倍体種の持つコピーにやや近縁であることから、本群はただ一回の交雑に由来する異質倍数体起源の系統群であり、そこから今日の多様化を遂げたことを明らかにした。
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