本年度は、(1)『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の解釈に関して、その中心概念たる「生活態度」(Lebensfuhrung)概念の検討に焦点をあてた論文を発表した(「ヴェーバー『倫理』論文の<生活態度>論」)。『倫理』論文については、多くの研究が「生活態度」概念に着目しないがゆえの決定的誤読をしているという観点に立ち、『倫理』における「生活態度」概念を、しばしば混同・同一視される「生活様式」(Lebensstil)概念と比較しながら検討した。従来、内面から発して外面へと表出する態度を示す「生活態度」と、第一義的には外的に表出されたスタイルである「生活様式」概念の区別がなされておらず、テキストの分析的な読解が妨げられてきたからである。同様の弊害は、英語圏の『倫理』研究にもある。というのも、英語ではLebensfuhrungもLebensstilも、ともにlife styleと訳され、そもそも訳語の上で区別されないからである。 (2)上記「生活態度」研究と並行して、ヴェーバーの『宗教社会学』草稿のテキスト研究を進展させた。現在、ドイツのヴェーバー全集編集委員によって、『宗教社会学』に対する『カテゴリー』の規範的意義は減退(消失)したという仮説が出されているが、これには批判もある。しかし、本研究課題にとっては、ヴェーバーがテキストの冒頭で「ゲマインシャフト行為」を基礎にすると明言し、かつ、テキストの随所で『カテゴリー』の諸概念を語彙として使用している以上、まずは<どこまで>『カテゴリー』の概念構成を念頭に『宗教社会学』草稿を解読することができるのかの限界を、丹念に検証することが重要だと考えられる。 (3)8月にドイツのヴェーバー縁の地にて資料収集を行った。ハイデルベルク大学図書館、ミュンヘン大学図書館等で、『倫理』で参照されている18、19世紀の神学書をはじめとしてヴェーバーが参照を支持している(日本では参照できない)文献を入手できたことは、今後のテキスト内在的研究につながる大きな成果であった。
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