平成17年度までにペルー共和国カハマルカ県コントゥマサ郡ヨナン=テンブラデーラ村にて、ラス・ワカス遺跡をはじめとする、先史アンデス文明形成期(紀元前1800〜50年)の遺跡群を発掘調査してきたが、18年度はそれによって得られた人工遺物・自然遺物の分析を実施した。人工遺物については、地点・層位ごとの土器の観察・計量・撮影・図化をすすめ、また土器以外の人工物全点の計測・撮影を完了し、建築の変遷との対応を明らかにした。自然遺物の分析では、中心的に調査したラス・ワカス遺跡の資料から時期ごとのサンプルを選出し、ペルー国立トルヒーヨ大学のビクトル・バスケス教授(生物学)及びテレサ・タム教授(考古学)に、種の同定と計量を依頼して以下のような成果を得た。まず土壌サンプルから抽出した炭化物中の種子を集め、利用された植物資源のバリエーションを把握した。さらに加熱調理時に焦げ付いた土器と、石器(摺り石)の表面から、付着した澱粉を採取して顕微鏡で観察し、調理された植物の同定を行った。その結果、アマカス期(形成期前期、紀元前1450〜1250年)にマニオクの農耕が行われていたこと、ついでテンブラデーラ期(形成期中期、紀元前1250〜800年)からトウモロコシが大幅に導入されたこと、ジャガイモとヤムイモが両時期とも少量ながら利用されたことが分かった。また土壌サンプルから採取された魚骨の大多数が海産魚のものであることと、貝類にも食用に適した海産種が数多く含まれていることをつき止め、内陸部に位置するラス・ワカス遺跡では陸産の食糧を消費するのみならず、海産資源も全時期を通じて沿岸部から運ばれてきていたことも明らかとなった。
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