フィレンツェ、オルサンミケーレ聖堂に残るオルカーニャ作のタベルナーコロと呼ばれる収納容器(1352-59年)とその内部に含まれるベルナルド・ダッディ作《恩寵の聖母》(聖母子図板絵、1347年)が、当時のフィレンツェ共和国において担っていた機能を解明するにあたり、以下の事柄について調査・考察を行った。 1 タベルナーコロに施された図像プログラムが1348年に町を襲ったペストの終焉を記念している可能性を、建物全体に為された装飾および同時代のフィレンツェに存在したと考えられる写本との比較検討を通じて指摘した。これに関しては、成城大学石鍋真澄教授のもとで報告会を行った。 2 タベルナーコロとその内部の聖母子図板絵の管理・保護、又、それらの称賛のための儀式を行う目的で結成され、更に当時共和国政府と密接な関係を持っていた「オルサンミケーレの聖母同信会」の構造と、その儀式の内容を解明するため、この組織の会則集(1294年、1333年、1591年版あり)の見直しと訳出を行った。これらの会則集については、今年度のフィレンツェでの資料調査を通じて、国立古文書館にてその原典にあたり、この会則集に関連するこれまでの出版物(1859年、1902年)では不明であった点を確認し、更にこれまで未発表の1591年版のコピーの入手、確認を行うことができた。 3 1に記した点に関連して、図像プログラムの更なる考察を行うため、フィレンツェのドイツ美術史研究所および国立図書館に保管される資料の調査、また同種の機能を持つ他作品の調査を通じて、この図像プログラムが、同信会の行う讃歌による聖母図の称揚の儀式に関連している可能性を見出した。 4 共和国と美術の関係性について指摘したシモーネ・マルティーニ作《マエスタ》(1315年)に関する論文をイタリアの研究誌Iconographicaにて発表した。
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