カドミウム刺激に対する細胞応答や適応の分子機構については、未解明な部分が多く残されている。ブタ近位尿細管由来上皮細胞株であるLLC-PK_1細胞やマウス胚性幹(ES)細胞等においてカドミウム刺激時にmitogen-activated protein kinase (MAPK)に属するc-Jun N-terminal kinase (JNK)が活性化される。しかしながら、カドミウム刺激によるJNK活性化が引き起こす細胞応答については明らかではない。そこでマウスES細胞を用いたノックアウト法によりJNKシグナルを完全に遮断することで、カドミウム刺激時の遺伝子発現にどのような変化が認められるかを検討した。JNK活性化因子であるSEK1とMKK7の2つのMAPKキナーゼを同時にノックアウトすることにより、カドミウム刺激によるJNK活性化が完全に抑制された。さらに同細胞において、カドミウム刺激時のストレス応答遺伝子群の発現変動を調べた結果、熱ショック蛋白のHSP70が、野生型では強く発現誘導されるにもかかわらず、ダブルノックアウトES細胞では全く誘導されなかった。以上の結果から、ES細胞においては、JNKシグナルを介したHSP70発現誘導が生じることが示唆された。今後JNKシグナルによるHSP70発現の分子メカニズムについて詳細に解析すると共に、この遺伝子発現がカドミウムによる細胞毒性に与える影響について検討を行う。
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