1.一般化フェリ磁性交互一次元鎖モデルとしてのbvd-Cu(hfac)_2錯体 基底一重項状態をとることが知られているフェルダジルビラジカルとCu(hfac)_2からなる鎖状高分子錯体を設計・合成した。X線結晶構造解析からビラジカルとCu(II)イオンが交互に並んだ交互一次元鎖を形成していることを明らかにした。磁気的ネットワークとしては、一般化フェリ磁性理論モデルにおける三種の交換相互作用(J_1:ビラジカル内、J_2:ビラジカル-Cu間、J_3:ビラジカル-Cu間)のうち、J_3→0の極限モデルとみなすことができる。SQUID磁束計による磁化率測定から、この錯体中では基底一重項ビラジカルが孤立状態と同様にS=0のスピン状態をとっていることを明らかにした。以上の結果は、理論計算の結果を矛盾なく説明するものである。なおこの成果は現在投稿論文として準備中である。 2.核酸塩基署換ニトロニルニトロキシドラジカルを用いた新たなアプローチ 本研究課題である一般化フェリ磁性系の構築と量子磁気スイッチングに対するモデル分子系の構築に向けて、核酸塩基を用いたアプローチ方法を考案し、それを実行した。これは、シトシン、グアニンなど、核酸塩基の特質である多重点水素結合による選択的分子認識を利用することで、結晶固体中で基底一重項ビラジカルと二重項モノラジカルを共存させようとするものである。 核酸塩基のなかでもとりわけその水素結合能が強いとされるシトシン、及びグアニン部位にニトロニルニトロキシドラジカルを導入した。シトシンには基底一重項状態をとることが多いとされているパラフェニレン骨格を有するビラジカルを、グアニンにはモノラジカルを導入したものを設計・合成した。シトシン置換ニトロニルニトロキシドビラジカルの磁化率測定より、基底状態が一重項であることを明らかにした。この結果を国際会議で発表し、proceedingsとして報告した.グアニン置換モノラジカルのX線結晶構造解析・磁化率測定の結果から、グアニン部位のrobustな水素結合ネットワークを媒介した強磁性一次元鎖を形成していることを明らかにした。この成果をまとめた投稿論文は現在査読中である。
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