研究概要 |
絵画や写真など2次元情報からの3次元奥行知覚、すなわち絵画的奥行知覚についてはこれまで文化的な経験の必要性が示唆されてきた。それに対し本研究では、生物学的基盤を明らかにするため、ヒトとマカクザルの乳児、チンパンジーの成体を対象とし、絵画的奥行知覚の系統発生的、個体発生的起源を「比較認知発達」の観点から検討した。特に本年度は、絵画的手がかりの中でも線遠近法と影(キャストシャドー)の手がかりから物体の空間位置を知覚する能力について馴化-脱馴化法を用いて調べた。線遠近法を含む背景上に呈示されたボールの影(キャストシャドー)の運動軌跡により「接近-後退」運動するボールが知覚される画像に馴化させた後、影(キャストシャドー)の運動軌跡のみを変化させ、「上昇-下降」運動するボールが知覚される画像を呈示した際に、注視時間の増加が見られるかにより弁別能力を検討した。その結果、6,7ヶ月齢のヒトの乳児と5ヶ月齢のニホンザル乳児、チンパンジーの成体において、影(キャストシャドー)の運動から物体の運動軌跡の差異を弁別できることが示された。したがって、線遠近法と影(キャストシャドー)による物体の空間配置の知覚は、少なくとも霊長類3種に共通の能力であり、その発達時期もほぼ同時期である可能性が示唆された。これらの結果は、国内、海外の学会で発表されるとともに博士学位論文の一部にも含められた。また、ヒトの乳児の研究結果は海外の雑誌論文"Vision Research"に掲載された。
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