現在用いられている生体用金属材料はステンレス鋼、Ti及びTi合金、Co-Cr合金の3種に分類できる。この中で、Ti-Ni合金はその形状記憶特性を利用して生体材料として利用されているが、Niのアレルギー性が問題となっている。そのため、より生体安全性の高い形状記憶合金の開発が要求されている。一方、Co-Cr合金は耐食性・耐摩耗性に優れていることから長年、生体材料として使用されている実績があり、安全性は高い。そこで、本研究は、能動カテーテルやステントなどの医療用材料への応用を見据えた生体安全性の高い新しいCo-Cr-Al基形状記憶合金を開発することを目的とする。本年度の研究業績は以下の通りである。 マルテンサイト及び磁気変態温度を制御するため、形状記憶特性に優れるCo-Al合金に第3元素を添加し、所定の熱処理を行った後、マルテンサイト変態温度、磁気変態温度を示差走査熱量計(DSC)や振動試料型磁力計(VSM)を用いて調査した。その結果、Fe、Ni、Mn、Si、Cr、V、Ti、Ta、W、Mo、Nbの11元素に対する変態温度に及ぼす影響を明らかにした。すなわち、Siはマルテンサイト変態温度を上昇させ、Crはあまり影響せず、その他の元素は低下させることがわかり、また、これらが形状記憶特性に及ぼす影響について明らかにした。また、Co合金の機械的性質は構成相に依存するため、各元素が添加された試料で残留γ(fcc)相の分率をX線回折により求め、γ/ε(hcp)の相安定性を決定した。これにより、形状記憶合金のみならず、医療材料や耐熱材料、耐摩耗材料に用いられているCo合金の合金設計の指針を得ることができた。
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