Co基フルホイスラー合金はCo_2YZ組成からなり、L2_1構造を有するハーフメタルの一種である。ハーフメタルはスピン分極率が1の磁性体であり、スピントロニクスのキーマテリアルである。Co基フルホイスラー合金薄膜は高いキュリー温度を有することからハーフメタルの候補として期待されるが、その作製の困難さから2000年当初までほとんど研究が行われていなかった。本研究ではバンド構造でハーフメタルになることが知られているCo_2CrAlに着目し、その低いキュリー温度を高めるためCrをFeで置換したCo_2(Cr_<1-X>Fe_x)Al系について構造と磁性の関係を系統的に調べ、さらにはそれを用いたトンネル接合(MTJ)素子を作製し、トンネル磁気抵抗(TMR)を詳細に調べた。 Co_2(Cr_<0.6>Fe_<0.4>)Al薄膜は構造解析の結果、この材料がB2構造を有しており、このような不規則な結晶構造であるにも関わらず、室温でTMR特性を観測できることを初めて見出した。また、CrとFeの組成を変化させたCo_2(Cr_<1-x>Fe_x)Alにおいて、結晶構造とTMRの相間を系統的に調べた結果、特にCo-CrのスワップがTMRを大きく減少させる原因となることを実験的に明らかにした。これらの結果から、この系において巨大TMRを発現させるためには規則度の高いB2構造か、あるいはL2_1構造が必要であることが明らかになり、この実現のためにより高品位な薄膜の作製に取り組み、理論値に近いスピン分極率を達成することに成功した。このように、フルホイスラー合金を用いた強磁性トンネル接合において、TMRを観測することに初めて成功し、また、従来フルホイスラー合金が完全なL2_1構造でのみ高いスピン分極率が得られるという概念を覆し、B2構造という不規則な状態においてもL2_1構造とほぼ同程度のスピン分極率が得られることを明らかにした。
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