本研究課題である「光誘起ドーピング法」の確立のためにはそのメカニズムを詳細に解明する必要がある。そこで今年度は、不純物として供給した分子と有機半導体との間での電荷移動現象がどのように生じ、素子特性にどのような影響をもたらすかを理解するための研究を重点的に行った。 有機半導体を用いた素子は大気の影響を強く受けることでよく知られている。我々はこのことを利用して、酸素分子を電荷の供給源として利用した。そして、電界効果トランジスタ構造を作りこんだ素子に対して、その活性層である有機半導体を酸素ガスに暴露したときの素子特性を評価した。評価は二つの手法を用い、一つは素子の静電容量から電荷の挙動を観測することができる変位電流評価法、もう一つは、有機分子と酸素との間の化学的な結合の有無、イオン種の検出を行える赤外吸収分光法を用いた。 真空中で素子特性を観測したあとに酸素を導入してその影響を測定した。その結果、暗闇状態で測定した場合には特性にはそれほど大きな変化はもたらさなかったが、光を照射したときには、大きなドーピング効果が観測された。これを我々は光誘起ドーピング効果と呼んでいるが、これまで有機材料として単分子系材料であるペンタセンのみを用いていたが、ポリマー材料においても観測することができた。また、赤外吸収分光法を用いたドーピング時の分子状態の評価においては、ドーピング効果があったときには有機分子のカチオン種の増加が観測された。これにより酸素による電気特性の変化が化学的な変質ではなく、有機分子と酸素との電荷移動によって成り立っていることがわかった。
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