研究概要 |
マグネシウム一価イオンとハロゲン化メチルからなるクラスターMg^+-CH_3X(X=F,Cl,Br,I)の光解離スペクトルおよび解離イオン飛行時間分布の解離光偏光方向依存性の測定を行った。光解離スペクトルには、Mg^+の3s軌道から3p_x,3p_y,および3p_z軌道への電子励起に対応する3つのバンドが観測された。さらに、単純なハロゲン化メチル分子の脱離に加えて電荷移動や化学結合解離を伴う複数の解離過程が存在することを見いだした。量子化学計算の結果、この1対1クラスターの最安定構造では、Mg^+がハロゲン化メチルのハロゲン原子側から結合し、基底状態では正電荷はMgに局在していることが明らかとなった。さらに、解離イオン飛行時間分布を測定した結果、いくつかの解離イオンにおいて顕著な異方性を観測した。観測された解離イオン放出角度分布は(1)金属イオンに局在した遷移、(2)親イオンの幾何構造および(3)親イオンの回転周期よりも十分速い解離によって決定されると結論した。このような解離イオン飛行時間分布には解離時の放出角度分布およびエネルギー分布に関する情報が含まれている。そこで、飛行時間分布のシミュレーションを行い異方性パラメータβと解離時の並進運動エネルギー分布の決定を行った。その結果、ヨウ素原子系では異方性パラメータの絶対値が大きく、余剰エネルギーの50%程度が並進エネルギーへ移行していることが分かった。一方、フッ素原子系ではヨウ素原子系に比べて異方性パラメータは0に近づく傾向にあり、余剰エネルギーの15%程度が並進エネルギーへ移行することが分かった。 以上より、本研究では多原子系のクラスターイオンにおいて初めて顕著な異方性を観測し、その解離過程の動力学的知見を得た。これは光誘起解離反応の解明に向けて大きな貢献をしたと結論できる。
|