脂肪酸結合タンパク(FABP)ファミリーは、種々の組織・細胞に発現し、脂肪酸の細胞内キャリアーとして、その細胞作用を制御すると考えられている。肥満細胞は、感染時にToll様受容体(TLR)の刺激を介してTNF-αを産生し、自然免疫機構において重要な役割を果たしていることが明らかになっている。食餌性脂肪酸や細胞膜に由来する脂肪酸は、肥満細胞に対して様々な免疫応答を惹起することが知られているが、その細胞内機構は未だ不明である。本研究では、免疫組織化学法を用いて、肥満細胞に発現する表皮型FABP(E-FABP)を同定し、E-FABP分子の遺伝子欠損マウス(E-FABP変異マウス)の肥満細胞における表現型を解析することにより、FABP分子の免疫制御因子としての可能性を提示している。 免疫組織化学法では、表皮型FABP(E-FABP)が骨髄由来肥満細胞に発現していることが示された。野生型マウスの骨髄由来肥満細胞では、長鎖不飽和脂肪酸であるアラキドン酸の添加により、エンドトキシン(LPS)刺激後のTNF-αの産生が亢進した。E-FABP変異マウスの骨髄由来肥満細胞では、野生型に比べてLPS刺激後のTNF-αの産生が著しく抑制されることが示された。さらに、TNF-αのmRNA転写を誘導するMAPキナーゼのリン酸化が抑制されていた。さらに、盲腸結紮穿刺により細菌性腹膜炎モデルマウスにおける致死率を比較すると、E-FABP変異マウスでは、野生型に比べてその致死率が上昇していた。一方、高親和性IgE受容体を介するOVA抗原刺激後のTNF-α産生やアナフィラキシー反応モデルにおいては、両者間で違いは認められなかった。 以上のことから、肥満細胞に発現しているE-FABP分子は、Toll様受容体を介する反応において、TNF-α産生の制御因子として働き、宿主の自然免疫応答に深く関与していることが明らかにされた。
|