本年度は、当初の研究実施計画の予定に沿って平成17年9月24日から平成18年2月5日に掛けて123日間フランスに滞在し、研究対象となる恐怖劇「グラン・ギニョル」に関連する文献資料を収集した。今回の滞在の第一の目的である先行の研究書の購入は、この度の渡航をもってほぼ達成されたと言って良いだろう。しかしながら、「グラン・ギニョル」の立て役者である脚本家アンドレ・ド・ロルドの諸著作については、そのほとんどが1920年の前後に書かれたものということもあり入手は困難で、今回の滞在ではそれらの所在を突き止めるに留まった。したがってこれらの文献については、次回以降の渡航において複写、収集することになるだろう。そのほかに、1962年で興業を終了しているかの劇場で実際に働いていた方にお話を伺うという機会に恵まれた。これも次回、ぜひともインフォーマントとしてより多くの情報を提供していただけるよう、時宜を得てインタビューを実施するつもりである。 上記した「グラン・ギニョル」関係の成果以外に、本年度は雑誌論文が一本掲載されることとなった。怪談噺、つまりは幽霊の出る噺の口演速記を読むこと、あるいは口演録音を聞くことの「恐怖」について、「落語の神様」とも称される明治の大名人三遊亭圓朝の作である『怪談牡丹燈籠』に取材し、「悪因縁と恋心」と題してその分析を行った。来年度も同じ題で投稿する予定があり、次回は圓朝のもう一つの代表作『真景累ヶ淵』に取材し別の角度から怪談噺の「恐怖」について分析を進める予定である。 娯楽として享受される「恐怖」をいかにして記述するかをめぐって、来年度以降も「恐怖」の体験談を対象にこのような「怪談批評」の実践を継続して行く。
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