本年度は、当初の研究実施計画の予定に沿って平成18年7月21日から平成18年12月24日に掛けて157日間フランス共和国に滞在し、研究対象となる「グラン・ギニョル」に関連する文献資料を収集した。今回の滞在における第一の目的は、当劇の中心的な脚本家であるアンドレ・ド・ロルドの諸著作の複写収集であった。彼の諸著作はそのほとんどが1920年前後に書かれたものであるが、今回の渡航では特にパリ市内にあるサント・ジュヌヴィエーヴ図書館を拠点に文献資料の収集を遂行した。また、現在パリ郊外で「グラン・ギニョル」のビデオを製作し販売している人物にインタビューをする機会に恵まれ、多くの貴重な情報を提供していただくことができた。しかしながら恐怖劇という「グラン・ギニョル」の特殊な傾向もあってか、今後直接的に関与した人物をインフォーマントとして多く探し出すことにはかなりの困難が予想される。 上記した「グラン・ギニョル」関係の成果以外に、本年度は雑誌論文が一本掲載されることとなった。前年度に引き続いて怪談噺の口演速記を読むこと、あるいは口演録音を聞くことの「恐怖」について分析を行った。今年度は三遊亭圓朝の作である『真景累ヶ淵』に取材し、その口演において出現することとなる「幽霊」がいかにして聴衆の「恐怖」を惹き起こすことになるのかを探究した。娯楽として享受される「恐怖」をめぐって来年度以降もこのような「怪談批評」を実践を継続して行くことになる。今後は特に怪談噺の源流となる仏教の説教との関わり合いから、その宗教学的な側面を見て行くことになるだろう。
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