研究概要 |
1.嘘をつく時に活動する脳領域の同定 本年度は脳機能画像法による賦活実験によって明らかになった、嘘に関与する脳領域-特に前頭葉における機能的解離に関する研究成果を報告した(Abe et al,2006)。この研究では二種類の嘘-知っているふりをする嘘と知らないふりをする嘘-を設定して実験を行い、嘘をつく時にはその種類に関わらず外側及び内側の前頭前野が賦活され、一方で前部帯状回は知らないふりをする嘘をつく時にのみ特異的に賦活されるという新たな知見を得た。 さらに上述の研究成果を発展させるべく、前頭前野の外側面と内側面の機能の違いを明らかにするための実験を行った。先行研究では、外側面はワーキングメモリー等の情報の保持や操作を、内側面は情動的な処理を担うとする成果が報告されていたため、外側の前頭前野は事実とは違うことを言うというプロセスに、内側の前頭前野は嘘をつくことに対する緊張感や相手を欺こうとする意図に関係している可能性を考え、それぞれを独立した要因とする実験を行った。結果としては概ね仮説を支持する知見が得られ、学会にてその成果を発表した。今後さらに詳細な解析を行うと共に考察を加え、成果をまとめていく予定である。 2.錯記憶に関する神経心理学的研究 アルツハイマー病及び正常圧水頭症により特異な認知機能障害を呈した症例に対し、系統的な神経心理学的検査を行った。この症例における特徴的な症状は、近親者に限局した人物誤認と、自分の今いる建物など本来一つのものが二つあると考える重複記憶錯誤であった。各種認知機能に関する検査及び画像所見から、この症状が記憶障害や遂行機能障害など複数の要因に由来する可能性、また右半球を中心とする脳機能の低下によって引き起こされる可能性が示唆された。本研究成果を一つの足がかりとして、今後は複数の脳損傷患者を対象として臨床研究を行う予定である。
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