酸化物高温超伝導体は超伝導を担う電子の電荷の符号により電子型、ホール型という2つの種類に分類される。高温超伝導機構の理解のためには電子型・ホール型両方の物質における超伝導相の電子状態を詳細に研究する必要が有るが、超伝導の舞台であるCuO_2面を単位胞中に1枚のみ有する電子型や単層系ホール型高温超伝導体は他のホール型に比べ1桁程度超伝導転移温度が小さいために超伝導状態特有の電子状態を観測することが困難であった。研究室現有の装置に真空紫外フィルターを組み込む改良を施して試料表面の真空下での寿命を従来の10倍程度まで高める、これを用いて電子型高温超伝導体の超伝導機構の特定に不可欠な超伝導ギャップ対称性の電子ドープ量による変化の研究を行った。さらに電子型とCuO_2面を同数有するホール型高温超伝導体で、やはり従来の装置では測定が困難であったLa系高温超伝導体において改良した装置を用いて超伝導状態における電子状態の研究を行い、世界で初めて単層系高温超伝導体における超伝導コヒーレンスピークの直接観測に成功した。また超伝導状態にのみ存在する多体相互作用によるエネルギー分散の変化の観測にも成功した。その結果、現在ホール型高温超伝導体においてその起源が盛んに議論されている、超伝導状態で顕著となる多体相互作用によるエネルギー分散の変化がCuO_2面の数に関わらず存在する一方、そのエネルギー位置は物質ごとの超伝導転移温度に対応していることを見いだした。さらにこのエネルギー分散の波数、温度、不純物依存性を系統的に測定した結果、エネルギー分散の変化の起源が従来型超伝導体のような電子と格子振動との結合では理解できず、むしろ電子と高温超伝導特有のスピン励起との結合でよく説明できることを明らかとした。
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