研究概要 |
オキシトシン(OXT)は脳下垂体後葉性ペプチドホルモンで、その受容体であるオキシトシン受容体(OXTR)は、脳を中心に発現するGタンパク質共役型受容体である。最近の研究によってOXT/OXTRは社会行動などの脳高次機能に関わることが報告され、従来考えられていた以上に興味深い機能を持つことが明らかになってきた。我々はOXTおよびOXTR遺伝子欠損マウス(Oxt-/-,Oxtr-/-)の作製を世界に先駆けて成功した。研究代表者はOxt-/-ならびにOxtr-/-を用いて攻撃行動に着目して解析を行った。Oxt-/-,Oxtr-/-の攻撃性を評価した結果、Oxtr-/-は野生型(Wt)に対して、攻撃性の上昇が確認された。一方で、Oxt-/-の攻撃行動にWtとの差異はなく、リガンドと受容体の遺伝子欠損マウスの表現型が異なるという興味深い結果が得られた。この現象がOXT/OXTR systemの新たな機能の発見に繋がるものであると考え、詳細な解析を行った。 上記の攻撃行動解析で用いたOxt-/-はOxtヘテロ接合体(Oxt+/-)同士の交配から得たマウスであった。そこで、現在までにOXTは母体から胎児へ胎盤を通過するとの報告がなされているなどから、このOxt-/-では胎仔期に母体及び同腹子からのOXTの流入によってOXTRを介したシグナルが伝達され、これがOxtr-/-と異なる表現型を示す原因である事を推測した。そこでOxt-/-同士の交配によりOXTが存在しない母胎環境下に育ったOxt-/-を得て、攻撃行動解析を行った。その結果Oxt-/-ではwtに比して攻撃性の上昇が認められた。これらのことから、胎仔自身のOXTRがリガンド刺激を受けて活性化する事が胎仔期の脳の発達に重要である事が示唆された。またOxtr-/-は攻撃行動異常の他に母性行動異常、社会記憶の低下、仔マウスにおける活動量の増大、超音波発声の発声頻度の低下が観察された。近年、OXT/OXTR systemと自閉症症状との関連が相次いで報告されている。Oxtr-/-で観察された行動異常は、自閉症で観察される社会行動異常、多動、言語障害と類似した現象ではないかと考えられた(Takayanagi, Y. Yoshida, M. et al., PNAS. 102,16096-101,2005)。この報告はPNAS officeからpress発表され、国内外に報道された。
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