研究概要 |
環境汚染物質の微生物分解に関する研究の多くは、実験室内で培養可能な完全分解微生物を研究材料としており、自然界に棲息する微生物の99%以上を占める難培養性微生物の遺伝情報を扱うことは不可能である。また、多くの細菌ゲノム中に遺伝子水平伝播の痕跡が明らかとなっているが、実際の自然環境中での挙動に関する知見は十分ではない。 本研究では未開拓遺伝子資源を扱う手法として、自然界に存在する可動性遺伝因子を利用した遺伝子取得系を構築した。本手法を用いて新規分解酵素遺伝子を取得すると共に、自然生態系において実際に水平伝播している可動性遺伝因子を明らかにし、遺伝子水平伝播機構の解明を目的とする。 1 本手法を用いて、土壌環境から多環芳香族化合物ナフタレン分解プラスミドpFKY1、および有機塩素系農薬γ-HCH分解プラスミドpLB1の取得に成功した。 2 pFKY1が担うナフタレン分解酵素遺伝子群とその近傍領域の構造を決定し、論文を発表した。一方、pLB1の全塩基配列を決定し、γ-HCH分解に関わる遺伝子linBが複数のISと複合型トランスポゾンを形成していること、および多数のCDSsが既知の遺伝子と低い相同性を示し、プラスミドの基本機能である複製、分配、接合に関わる遺伝子群についても新規性が高いことを明らかにした。また、pLB1がα-proteobcteria特異的に接合伝達されることを示し、これらの結果を併せて論文を発表した。 3 1,2の結果から、自己伝達性プラスミドが自然環境中で伝播していることが明らかとなり、その伝達機構に興味が持たれた。ナフタレン分解プラスミドNAH7はType IV分泌機構によって接合伝達されるが、このような広宿主域プラスミドの伝達開始点(oriT)周辺に機能未知の遺伝子群(traD cluster)が保存されおり、接合伝達に関与する新規遺伝子群であることを見出した。
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