薬物動態研究において重要であるモデル動物とヒトとの消化管吸収における種差を分子レベルで明らかにするため、マウス小腸においてエストロン硫酸(ES)をモデル薬物とし、ESの消化管吸収に関わるトランスポーターの同定を試みた。既にヒトにおいてはOATP2B1がESの取り込み輸送に重要であることを示しているが、そのマウスorthologであるOatp2b1はESをほとんど輸送しないことを明らかにした。しかしながらマウス小腸においてもESはトランスポーターを介して吸収され、その実体としてOATP1A subfamilyが関与すると考えられ、これはヒトにおいてはOATP2B1を介して吸収される機構と一部異なり、マウスなどのげっ歯類をヒトの消化管吸収モデル動物として評価する際にはOATP familyの種差に注意する必要があることを示している。 また、近年非臨床試験において問題となるサルの薬物動態特性に関する研究を行った。サルは遺伝的にはヒトに近いものの特に経口投与後の薬物動態特性がヒトとは乖離していることが問題となっている。この原因は小腸における初回通過効果がこの原因と成り得ると考えられたためカニクイザル小腸における薬物の吸収特性とそのメカニズムを明らかにすることを試みた。消化管吸収を左右する重要な因子であるCYP3A4およびP-gpに注目し、その代表的基質であるミダゾラムおよびエトポシドのサル小腸における薬物動態特性を明らかにすることを試みた。Ussing chamber法によりサル小腸における代謝と輸送特性を評価したところ、サル小腸はCYP3A活性は極めて高く、またP-gpの関与は予想に反し小さく、むしろ取り込みに関与するトランスポーターの関与が小さいことが示唆された。これらの知見は今後、サルを用いて経口吸収性と評価する際の基盤情報として大変有益であると考えられる。
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