昨年度までに、ヒトUGTIA分子種がヘテロダイマーを形成し、これによりUGT酵素活性に影響を与えることを明らかにした。今年度は、フェニトインの主代謝物である4'-HPPHのグルクロン酸抱合活性についてヘテロダイマー形成の影響を検討した。また、ヒト肝における主要なUGT2B分子種であるUGT2B7とUGTIA分子種との蛋白相互作用についての検討も行った。 1.4'-HPPHのグルクロン酸抱合反応 4'-HPPHはキラル中心を持ち、(S)体、(R)体の2種類が存在する。これらのグルクロン酸抱合反応を触媒するUGT分子種について検討したところ、これらは共にUGTIA1およびUGTIA9により触媒されるが、(S)体はUGT1A9の、(R)体はUGT1A1の寄与が大きいことを明らかにした。次に共発現系を用いて酵素活性を検討し、UGT1A1活性ではUGT1A4とのヘテロダイマー形成によりS50値が上昇し、UGT1A9活性ではUGT1A6とのヘテロダイマー形成によりS50値が上昇、Vmax値が低下することを明らかにした。また、この影響は(S)体、(R)体でほぼ同様であったことから、ヘテロダイマー形成による酵素活性への影響には基質の化学構造など何らかの法則がある可能性が示唆された。 2.UGT1AとUGT2B7とのヘテロダイマー形成に関する検討 HEK293細胞にUGT1A1、UGT1A4、UGT1A6またはUGT1A9とUGT2B7を共発現させた安定共発現系を構築した。これらを用い免疫沈降法、熱安定性試験を行い、UGT1A分子種はUGT2B7ともヘテロダイマーを形成することを明らかにした。また、ヘテロダイマー形成の酵素活性への影響について検討したところ、UGT1A1とUGT2B7とのヘテロダイマー形成により、UGT1A1特異的エストラジオールグルクロン酸抱合活性のS50値が減少し、Vmax値とHill係数が増加することや、UGT2B7特異的モルヒネグルクロン酸抱合活性のKm値が減少し、Vmax値が増加することなどを明らかにした。 本研究において明らかにしたUGTのダイマー形成はヒト臓器においても起こっている可能性があり、ヒトにおけるグルクロン酸抱合反応を予測する際にはUGT蛋白相互作用を考慮する必要があることが示唆された。
|