本年度は、前年度に引き続きレヴィ=ストロースの構造人類学の理論形成過程をめぐる検討作業を継続しつつ、前年度の予備調査をふまえて、カナダ北西海岸における、先住民権をめぐる先住民と政府やNGOのあいだの現状把握を目的とした、長期現地調査に研究の重心を移した。それぞれの詳細は以下の通り。 ■レヴィ=ストロースの構造人類学の形成過程の理論的検討について。講義録をはじめとする、従来言及の少ない資料により、親族論や神話論という見かけ上の研究対象、テーマに囚われないレヴィ=ストロースの人類学思想・人類学再構築の試みとして構造人類学を捉えるための研究を継続した。とりわけ神話研究期以降の理論展開において重要な位置を占める「イエ」概念の射程の再検討は、下記の現地調査でも重要な着眼点となった。さらに、東京外大AA研主催の研究会「マルセル・モース研究 社会・交換・組合」に共同研究員として参加し、レヴィ=ストロースによるモースの人類学的思考の継承の内実を、従来の思想史的マッピングの陰に隠れ、さほど省みられていなかった民族誌読解技術論の観点からの検討を試みた。上記の2つの研究の過程では、研究と平行して未邦訳論文・著作の翻訳を試みており、翻訳に着いても今後、何らかの形で発表したいと考えている。 ■カナダ北西海岸における現地調査について。本年度は通算半年弱、計3回にわたりブリティッシュコロンビア州プリンスルパートを拠点に、周辺に居住する先住民、ツィムシアン族、ニスガ族の現地調査を行った。先住民の居留地に滞在し、とりわけ生業形態を中心に総体的把握を試みたほか、伝統が残存する儀式等に参加し伝統復興運動の実情の把握にも努めた。調査中には、親族構造を中心とした社会構造・生業基盤の現代的変容および伝統的要素の残存という論点に加え、NGOや政府等の他セクター間との資源管理・土地権返還交渉・経済問題をめぐって、先住民の人びとからの聞き取り調査を行い、また他方、現地で住民一般を対象に開催された会合や公聴会にも参加し、カナダ社会における先住民の現代的な政治的・経済的位置の多面的把握に努めた。 *なお現在、上記の作業・調査から得た成果を本年度にまとめて発表すべく、また、本年度の追加調査におけるデータ・視点の精密化を図るべく採集データを整理しつつ、論文の準備を進めている。
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