本年度は以下に述べる比較的独立した二つの研究テーマを、年度末の博士論文提出に向けて一つのテーマに縒り合わせる作業を行ったが、下記の理由により論文提出は延期した。 (1)レヴィ=ストロースの構造人類学の生成過程をめぐる人類学史的検討の総括。レヴィ=ストロース「と」人類学の関係を、学説史の一部としてではなく、レヴィ=ストロースという個体生成における人類学との対話的緊張関係を軸に再検討した。その個体生成過程を通じて積極的な人類学の作り替えを行った稀有な例として、レヴィ=ストロースの人類学の「質的生成変化」を捉える視点設定の可能性を模索した。講義要録をもとにレヴィ=ストロースの底流にある人類学のコンセプトを、従来の構造主義という決り文句ではない観点から取り出す作業を行った。前期から後期への変化と持続の両者を捉えるにあたり、「社会人類学」という領域呼称の設定を、英国系人類学用語に対する転倒あるいは確信犯的作り変えという視点から検討作業を進めた。 (2)昨年度カナダで実施した土地権訴訟、環境管理政策の調査成果の整理と、レヴィ=ストロースが自らの人類学形成の背後で念頭においていたフランス社会学派の中間集団の問題系への接続。先住民権をもとに自然環境および非先住民との「共生モデル」に関する応用人類学の事例として検討する予定だったが、時間上の制約、北米での人類学の役割の高い政治的負荷に起因する制約、中間集団の問題系の比較法社会学方面への広がりの予想以上の大きさのため、作業を一旦中断した。 論文提出を延期して、年度後半はレヴィ=ストロースの個体形成の検討の補強作業に切り替えた。パリを中心に文献調査を行い、日本で入手困難な論文・著作を収集して、前者のテーマを資料面から補強した。あわせて、受入研究者の渡辺教授に同行する形でフランスのレヴィ=ストロース研究者であるF・ケック氏と面談・意見交換を行った。
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