〔史料調査〕 国立国会図書館・東京大学史料編纂所・長崎歴史文化博物館において、中世から近世初期にかけての対馬史料(おもに家文書)、および東アジア交流史関係史料を調査した。 〔現地調査〕 大韓民国済州島の港町で現地調査を実施した。海上交通の要衝であった済州島の自然環境などを実見することで、中世日朝交流にかんする理解を深めることができた。 〔研究成果〕 (1)『中世対馬宗氏領国と朝鮮』では、近年の中世日朝交流史研究の最大の論点である「偽使問題」を「宗氏領国」という視点から分析し、対馬と朝鮮との政治・経済交流のありかたを明らかにすることで、中世日朝交流史像を再構築するためのひとつの道筋をひらくことができた。なお、本書には新稿「一六世紀宗氏権力の変容と朝鮮通交権」を収録した。これは対馬宗氏が1512年の壬申約条にともなう通交貿易権益の激減をどのようにして克服して権力維持につとめていたのか(より具体的にいえば、どのように偽使通交権益・偽受職通交権益を集積し、それらをどのように家臣団に分配していたのか)を明らかにしたものであり、「偽使問題」の本質にせまったものである。(2)「一五・一六世紀の島津氏-琉球関係」は中世日琉交流史をメインとした論考であるが、島津氏の日琉交流統制策である「印判制」と対馬宗氏の日朝交流統制策である「文引制度」とを比較検討することで、後者のもつ意義がよりいっそう明確になった。(3)「14〜16世紀の三島地域と朝鮮」、および(4)「15・16世紀対馬の経済と朝鮮貿易」は、中世対馬の経済構造(「佐賀経済圏」・浅茅湾岸地域・府中)の形成・変容を日朝貿易の推移とのかかわりのなかで論じたものであり、中世日朝交流史研究を中世日本経済史(流通史)研究や近世日朝交流史(貿易史)研究に架橋しようとするこころみである。
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