子ども達の路上生活は国際的な社会問題とみなされ、国際機関、政府、NGOなどが解決に取り組んでいるが、実際に子ども達が生活している現場では、その路上生活が周囲の人々によって容認され、問題とみなされていないという状況が観察される。そこで、子ども達の生活世界において、子ども達に向けられるまなざしとはどのようなものであるか、を明らかにするために、「子ども期」を路上で過ごすという経験を、子ども達の語りから解釈することを目的とし、2005年9月から11月に、インド共和国デリー州のニューデリー駅周辺で、ストリートチルドレンを対象に聞き取り調査を実施した。その結果、子ども達の路上生活を当たり前のものとして対応する警察や雇用主と、そういった現状を問題視しつつも、路上生活か施設生活かという選択において、子ども達の主体性を尊重することで、結果的に子ども達の路上生活を持続させてしまうNGOの支援という、目指すところは異なるが、路上で過ごす「子ども期」を容認する子ども達をとりまく子ども観が明らかとなった。さらに、NGOによる支援をきっかけとして、自分で人付き合いや情報収集をすることで、社会関係を構築し、将来のための資金や技術を習得していく子ども達も見られたが、路上生活が長い子どもほど、きっかけがあっても、路上生活の中で身についた習慣を絶ち、新たな環境に適応するために、従来の生活を変えることが難しい状況が見られた。 また、デリー州のミドルクラスの家庭や、その子どもたちが通う小学校における予備調査では、路上で生活する子ども達とミドルクラスの子ども達との生活が異なり、交わることがなく、それぞれの子ども達に対して異なる子ども観が形成されていることが明らかとなった。
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