乳児の共同注意行動の出現に情動の生起がどのように影響を及ぼすのかを検討するため、実験的観察法を用いて玩具遊び中の乳児(6、9、12ヶ月児)の情動変化とそれに伴う視線の移動を検討した。収集された動画データはDVDに記録され、被験者の個人情報を保護する観点からスタンドアローンのパソコンによって分析を行った。またデータの信頼性を保障するためにビデオ評定者には乳幼児の行動評定に習熟した者を用いた。これによって、乳児が注視点から視線を外す減少は、乳児がニュートラルなときよりもポジティブな情動を表出しているときに多く、またこの傾向は人を見ているときにも物を見ているときにも共通することが示された。また、注視点から視線を外した後の注視対象の選択においては、乳児がニュートラルなときには人を見る頻度と物を見る頻度に有意な差がなく、一方乳児がポジティブなときには生後12ヶ月児においてのみ物よりも人を見る傾向が示された。このポジティブ時に人を見る頻度は生後6、9ヶ月児と12ヶ月児の間で飛躍的に増加しており、「うれしいときに人を見る」という行動は生後9〜12ヶ月の間に獲得される可能性を示唆した。 これらの実験を行う一方で、黒木・大神(2003)の調査対象児となった地方自治体の幼児のうち3歳に達した者について、3歳児検診で心裡社会面の発達を確認した。また、その結果として発達障害が疑われる者については鑑別診断によって発達障害の有無を確認した。この作業は現在も継続中であり、本調査によって集積されたデータは次年度に計画しているスクリーニング効果の検証に用いられる予定である。 これらの研究成果については国内外の学会においてポスター発表を行うと共に、各種研究会に招聘され口頭発表を行った。
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