1.非血縁個体からなる社会集団において社会内制裁が協力行動を進化させる条件を、進化ゲームモデルを用いて導出した。間接互恵性は「良い」評判を通して利他行動が個体間で交換される仕組みで、ヒトに普遍的に見られる。どのような行動を「良い」とみなす社会規範があれば間接互恵性が進化し得るかをESS解析により調べた。その結果、理論的に可能な256通りの社会規範のうち、leading eightと呼ばれる8つの規範のみが高水準の協力を安定的に実現できることが分かった。これらの社会規範は「評判の良い者が行う評判の悪い者への非協力行動」を「良い」行動とみなす共通点を持つ。すなわち、間接的互恵性の進化には社会的制裁の正当化が必要不可欠であることが明らかになった。 2.集団の構造が制裁行動および協力行動の進化に及ぼす影響を定量的に明らかにした。集団の構造は平均次数kの連結グラフで与えられると仮定する。グラフの各ノードにはゲームのプレーヤーが配置され、グラフの辺で繋がれた近傍とのみ相互作用を行う。この仮定のもとで集団遺伝学のMoran過程のグラフ上への拡張を考え、協力行動の固定確率をペア近似法および拡散近似法を用い解析的に計算した。その結果、協力行動のベネフィット-コスト比b/cがグラフの平均次数kより大きい時に限り、協力行動が適応的に進化可能であることを発見した。 3.トゲオオハリアリのコロニーでは血縁選択理論に一見矛盾したワーカーポリシング行動が観察される。この制裁行動の進化的起源を最適スケジューリング戦略という観点から研究した。女王とワーカーがプレーヤーとなる動的ゲームモデルを立て、その開ループNash均衡点を計算した。その結果、成長途上にある小規模コロニーでは繁殖よりも労働力への投資が重要であり、ワーカーによる制裁行動が確かに適応的意義を持つことが示された。
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