今年度は、前年度までの研究結果を整理し直し、種々の境界摂動実験と比較することにより、境界摂動に対する応答に共通してみられる、摂動の詳細に依存しない性質を明らかにした。 第一に、半導体微粒子を混合した系での光の照射に対する電流の応答、触媒上での化学反応における容器の圧力変化に対する反応速度の応答、溶液の境界温度変化に対する熱流の応答、といった種々の境界摂動実験を比較し共通の性質を調べた。その結果、これらの境界摂動実験は、粒子の流入、移動、流出という三つの本質的な過程を共通して含んでおり、これまで我々が用いてきた粒子の流入・流出に基づくモデルが境界摂動実験の一般的な性質を調べる道具として適当であることを確認した。 第二に、粒子の移動が量子力学に従う場合に加えて、運動が古典力学や確率分布の時間発展で記述される場合についても解析を進めることにより、境界摂動に対する応答と到達時間分布の関係が、種々の系において普遍的に成り立つことを明らかにした。過去に川崎らによって解析された粒子の移動がランダムウォークに従うモデルでは、境界摂動、及び、吸着壁がない状態での初到達時間分布が境界摂動に対する応答関数であるという結果が得られていた。一般的なモデルに基づいてこの結果を再検討することにより、川崎らの結果は特殊な状況でのみ成立し、一般の設定では、これまでの量子系の研究で明らかにしてきた関係式と同様に、吸着壁の性質に依存するように定義した到達時間分布が、境界摂動に対する応答関数になることを示した。
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