Y51株をMMYPF液体培地で培養した際に脱ハロゲン化能を失った株が出現するという現象が観察され、SD(small deletion)株とLD(large deletion)株の2タイプに分類された。SD株はPCEデハロゲナーゼをコードするpceA遺伝子の上流において、そのプロモーター-35領域(TTGACA)を含む約1.6kbを欠失した株であり、一方、LD株はpceA-B-C-T遺伝子群を含む約6.5kbを欠失した株であった。これらの欠失株の出現機構には、Y51株のpce遺伝子群を挟むように位置する2つのIS因子(ISDesp1とISDesp2)が関与していた。MMYPF液体培地で培養したY51株より抽出した全DNAを鋳型として、ISDesp1、ISDesp2およびpce遺伝子群の内部に外向きにプライマーを設計してPCRを行った結果、3種類の増幅断片が得られた。シーケンス解析の結果、それぞれ、IS因子として環状体したISDesp1(約1.6kb)、ISDesp1とISDesp2とが相同組み換えを起こした結果、切り出されて環状化したTnDesp1(約6.5kb)、ISDesp1からISDesp2にわたる配列が複合トランスポゾンとして環状化したTnDesp2(約8.0kb)であることが分かった。したがって、SD株の出現にはISDesp1の転移現象が関与していること、一方、LD株の出現にはISDesp1とISDesp2の相同組み換えが関与していることが明らかになった。また、Y51株のpce遺伝子群がカタボリックトランスポゾンとして機能することが明らかになった。ISDesp1およびTnDesp2は、環状体を経て非複製的に転移するタイプのトランスポゾンであることが考察された。
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