研究概要 |
植物の葉面温度は、蒸散率によって変化するため、気孔の開度の尺度となる。そこで、CO2依存的な葉面温度変化を指標に、合計11系統のCO2非感受性変異体cdi(carbon dioxide insensitive)を単離した。これらの変異体のうち、cdi8変異株は唯一の優性変異体であり、CO2濃度に関わらず、低い葉面温度を示す。原因遺伝子のマッピングを行った結果、本研究室で最初に単離されたCO2制御因子であるHT1キナーゼに変異部位が同定された。ht1変異体はCO2濃度に関わらず、高温を示す変異体として単離されたが、変異部位により、逆の表現型の低温になることが明らかになった。今後cdi8はht-3としてその原因を解明していく予定である。 また、先行している解析を進めているcdi3変異体は、cdi8と同様に、高い蒸散率を示し、CO2に対する感受性が著しく低下している変異体である。その原因遺伝子は、孔辺細胞の細胞膜に特異的に発現するトランスポーター様のタンパク質をコードしていることが明らかになった。気孔におけるCDI13タンパク質の役割を明らかにするため、気孔の開閉に関わるイオンであるK+、Cl-,リンゴ酸-の含量をWTとcdi3変異体の孔辺細胞プロトプラスト(GCP)を用いて測定した。その結果、cdi3変異体はWTと比較して、すべてのイオンに対して高い値を示すことが明らかになった。CDI3タンパク質は、CO2シグナルのみならず、気孔におけるイオンホメオスタシスに重要な役割を果たしていることが示唆される。今後は、電気生理学的手法を用いて、輸送基質を明らかにする予定である。また、シロイヌナズナには、CDI3タンパク質と相同性の高い遺伝子が数個存在するが、これらの遺伝子の機能分化を明らかにするため、発現解析と機能相補解析をおこなった。その結果、それぞれの遺伝子が差次的な組織特異性を示し、とりわけCDI3のみが気孔特異的に発現することが明らかになった。ホモログ遺伝子の機能がCDI3と同様であるかどうかを検証するため、気孔特異的なプロモーターを用いて、ホモログ遺伝子をcdi3変異体の気孔において異所的に発現させた。得られた形質転換体では、cdi3変異体に見られた恒常的な気孔開口が機能相補されていることから、CDI3とホモログ遺伝子の機能は類似することが明らかになった。今後、ホモログ遺伝子の欠損変異体を用いて詳細な表現型解析を行うことで、CD13タンパク質の機能同定に役立てていきたい。
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