オウィディウス『変身物語』における物語の連関を軸にして作品の解釈を試みる。『変身物語』に含まれる多彩な物語群は、個々に独立する物語でありながらも、互いに連関を有している。この理解については先行研究も広く認めるものであるが、個々の物語の理解に影響を与えるような物語同士の内的な連関については、具体的に議論され得る余地はなお多く残されている。 具体的には、第10巻「オルペウスの歌」に含まれる物語群の連関について詳細に分析した。学会誌には、連続して語られる「ピュグマリオーンの話」と「ミュッラの話」の連関についての考察を発表した。そして3つの要素(「出産の過程」と「愛の性質」、sentio「気付く」、色彩の要素)を軸に、両者が互いに深く結びつき、相互照射的な関係を有していることを明らかにした。 またsiquid medium est mortisque fugaeque「死と追放の中間の何か」(第10巻223行)と言い表されるケラスタエに科された変身の罰に関して再考察を行なった。この表現は従来の研究では「死よりも軽く、追放よりも重い罰」と解釈されているが、「オルペウスの歌」で語られるアタランタに科された変身の罰が「死よりも重い罰」と定義されることと矛盾する。そこで「オルペウスの歌」を構成する7編の物語中で語られる変身の性質を詳細に分析し、物語同士の連関という視点から比較検討して新たな理解を提示した。この成果の一部を都立大哲学会で口頭発表したが、さらに推敲した研究成果を来年度中に学会誌に掲載する予定である。 以上の考察は、物語同士の連関について従来の研究を推し進めると同時に、個々の物語の理解を深めるものとなった。従来の研究で指摘されている以上に、物語同士は密接に結びつき、相互に影響関係を有しているのである。
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