近年在宅診療に携わっている歯科医療の現場で、歯牙欠損部位に補綴処置を施し咀嚼機能を回復させると、QOLの向上や痴呆軽減がしばしば惹起されることが注目されている。そこで本研究では、機能的磁気共鳴画像(fMRI)法を用いて高齢ボランティアの高次脳機能が咬合咀嚼刺激により改善することを、神経科学的に解明することを目的としている。 この目標を達成するために、今年度は以下の研究を実施した。 1.昨年度から進めている、咬合咀嚼刺激の作業記憶課題遂行に与える影響を調べるためのfMRI検査の健常若年ボランティア数を予定数まで追加した。その結果、咀嚼運動後の試行において信号増加率の回復が確認された。また、fMRIにおけるBOLD信号増加率と作業記憶課題の難易度との関連性を分析し、北米神経科学学会において発表した。 2.知的機能に与える咬合咀嚼課題の影響をさらに詳細に検討するために事象関連fMRIを用いる注意課題を作成した。注意課題は高齢者においても遂行が可能で、注意の検出感度が高くなるように設計し、MRI室外で効果を確認した。健常若年ボランティアを用いてfMRIによる検討を行った結果、咀嚼後に注意課題の実行速度が向上する傾向が認められた。 3.咬合咀嚼状態の知的機能に与える影響を義歯調整および装着の点から検討するため、咬合咀嚼不全により義歯調整あるいはインプラント義歯の装着が必要なボランティア(54-75歳)を用いて、咬合咀嚼課題(チューイングおよびクレンチング)の脳活動への影響をfMRIを用いて検討を開始した。 その結果、運動連合野および前頭前野等において信号上昇が認められた。今後、義歯調整後においても同様の検査を行い、結果を比較検討する。
|