研究概要 |
葉緑体は植物細胞内において周囲の光環境に応じてその位置を変える。効率よく光を吸収するために弱い光には集まり(集合反応)、光損傷を避けるために強い光からは逃げる(逃避反応)。種子植物シロイヌナズナでは、集合反応は2つの青色光受容体フォトトロピン(phot1、phot2)によって制御され、逃避反応はphot2のみによって制御されている。新規のスクリーニング法により、我々は逃避反応は正常であるが集合反応を欠損したjac1変異体(J-domain protein required for chloroplast accumulation response 1)を単離し、ポジショナルクローニングにより遺伝子を特定した。JAC1遺伝子はクラスリン被覆小胞の脱被覆に働くauxilinタンパク質とカルボキシ末端で相同性をもち、J-ドメインタンパク質をコードする事がわかった。JAC1 mRNAとJAC1タンパク質の量は光条件によって変化せず、フォトトロピンの制御下にはない。GFP融合タンパク質を葉肉細胞中で一過的に発現させると、細胞質全体に蛍光が検出されたので、JAC1は可溶性のタンパク質であると考えられる(Suetsugu et al.,Plant Physiol.2006)。 藻類から顕花植物に至る多くの植物では光屈性や葉緑体光定位運動に青色光が有効であるが、シダ・コケ植物や緑藻類の中にはこれらの反応誘導に青色光のみならず赤色光も利用するものが多い。それによって弱い光に対する感受性が高まっている。シダ植物では進化の過程でフィトクロムとフォトトロピンのキメラ遺伝子PHYTOCHROME3(PHY3)ができたことにより、効率よく赤色光を利用できるようになった。我々は葉緑体光定位運動で有名な緑藻ヒザオリから2つのホウライシダPHY3様遺伝子、NEOCHROME(MsNEO1、2)を単離した。ホウライシダPHY3タンパク質同様に、両MsNEOタンパク質はフィトクロムに典型的なビリンと結合して赤色光/遠赤色光可逆性を示し、その差スペクトルはヒザオリの葉緑体光定位運動の作用スペクトルとよく一致した。さらに、ホウライシダphy3変異体の前葉体にこれらの遺伝子を一過的に過剰発現にさせると、赤色光依存の葉緑体運動が回復したことから、ヒザオリNEOCHROMEとホウライシダPHY3は機能的に同一である事がわかった。しかしながら、これらのキメラ遺伝子はシダ植物とヒザオリで偶然にも独立に創成された可能性が高く、収斂進化の稀な例と考えられる(Suetsugu et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA..2006)。
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